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【タックル法律講話】異例の2年連続「死刑執行ゼロ」
「死刑確定から6カ月内に執行」という刑事訴訟法を恣意的運用に任せていいのでしょうか?
2025/02/05
異例の2年連続「死刑執行ゼロ」
「死刑確定から6カ月内に執行」という刑事訴訟法を恣意的運用に任せていいのでしょうか?
死刑囚に対する刑の執行が、昨年末時点で、2年連続でゼロ件となりました。1990年前後の3年超にわたる未執行以来、異例の長期ゼロ件となっています。直近の死刑執行は2022年7月で、東京・秋葉原で08年に起きた無差別殺傷事件の加藤智大死刑囚でした。現在、106人の死刑囚が未執行の状態です。
死刑執行は法務大臣の命令により行われますが、その命令は「判決確定の日から6か月以内」にしなければならない」と定められています(刑事訴訟法)。
しかし、実際には、判決確定から執行までの平均期間は約7年9カ月にも及んでおり、しかも2年連続で死刑執行がゼロですので、明らかにこの規定に反する状態が続いています。
法務省は、この「判決確定の日から6か月以内にしなければならない」との規定について、「訓示規定に過ぎない」、すなわち、専ら行政機関に対する命令であって違反してもその行為の対外的効力に影響はない、と解釈しています。運用上は、「法務大臣は関係記録の内容を十分に精査させたうえで、刑の執行停止、再審または非常上告の事由の有無、恩赦を相当とする情状の有無等について慎重に検討し、これらの事由等がないと認めた場合に死刑執行の命令が発せられる」とされています。
確かに、死刑は執行されてしまえば取返しのつかない極刑ですし、再審請求中の事件や袴田事件のような冤罪もありますので、死刑執行が慎重に判断されるべきことは当然です。
「法の下の平等」に反するのでは?
しかし、確定から死刑執行までの平均期間が約7年9カ月というのはどう考えても長すぎますし、50年以上も前の袴田事件とは異なり、近年はDNA鑑定など最新の捜査方法も確立していますので、執行を先延ばしにする合理的理由も乏しいと思います。何よりも、いつまでも死刑執行がなされないことは、被害者の遺族感情としても到底受け入れ難いことでしょう。
確かに、死刑をめぐっては、制度そのものへの賛否も含め、意見が激しく対立し、毎回ネット上でも活発な議論が交わされますし、時の法務大臣が「死刑廃止論者」であったり、決断力に乏しかったりすると、いつまでも死刑執行がなされない状態が続くことになります。
しかし、そもそも、同じ死刑囚でありながら、早く執行されてしまった人といつまでも執行されない人が存在すること自体がおかしなことです。これは、「法の下の平等」に反しているのではないでしょうか?
仮に法務大臣がいつまでも執行を命じないであれば、恣意的運用との批判は免れません。むしろ、死刑制度を正面から議論し、法の下の不平等を正し、刑事訴訟法の規定と現実の乖離を埋める努力をすべきです。法務省は、死刑執行の手続きなどについて、「死刑囚の心情の安定」を理由に詳しい情報公開は行っていませんが、オープンな議論が必要な時期に来ていることは間違いありませんね。それでは次号で!