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「熱血弁護士 堀内恭彦の一筆両断」産経ニュースコラム5月26日(木)掲載されました。

2016/05/26

5月26日(木)、産経ニュースにコラム「熱血弁護士 堀内恭彦の一筆両断」
「へイト規制法 低すぎる危機意識」が掲載されました。
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へイト規制法 低すぎる危機意識

5月24日、自民党・公明党が提出した「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」(ヘイトスピーチ規制法)が衆院本会議で可決、成立した。外国人に対する差別的言動は許されないが日本人に対する差別的言動については問題にしないというおかしな法律である。ただし、今回は旧民主党などが主張していた禁止や罰則付きの過激な内容は盛り込まれず、啓発を目的とした「理念法」にとどめられた。

この法律は憲法が保障する「表現の自由」との関連で非常に危険な内容を含んでいる。何よりも大きな問題は、「ヘイトスピーチ」の定義が曖昧なことである。ヘイトスピーチ規制法では「本邦外出身者に対する不当な差別的言動とは、専ら本邦の域外にある国若(も)しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(本邦外出身者)に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加える旨を告知するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動(せんどう)する不当な差別的言動をいう」と定義している。

しかし、この定義で、一般国民にとって何がヘイトスピーチであるかが明確にわかるだろうか?

わかりにくく曖昧であれば、「このような表現活動はしてはいけないのではないか?」との不安から、国民の自由な言論、情報発信が萎縮してしまう。また、差別的言動の「言動」の範囲には「出版」も含まれるので、中国、韓国、北朝鮮など「本邦外出身者」について書かれた雑誌・書籍についても「差別的意識を助長するヘイトスピーチだ!」と非難されることもあり得る。

「今回は理念法にとどまり禁止や罰則がないから、それほど心配ないのでは?」というのは早計で、「理念法」が成立すれば、その後の個別具体的な法律が作りやすくなるので、今後、必ず、禁止や罰則付き、「ヘイトスピーチ審議会」に特定の人種、利害関係者を入れ込むという法律制定の動きが出てくる。また、地方自治体でも、この「理念法」を追い風にして「大阪市ヘイトスピーチ条例」のような独自の条例制定の流れが加速していく。裁判官ではない「ヘイトスピーチ審議会」によって「差別主義者、人権侵害者!」のレッテルを貼られ公表されるという恐るべき事態が想定される。

日本では「表現の自由」が保障されているのが当たり前で、どこかの国のように「権力者を批判したから即逮捕」などということもない。しかし、我々日本人はあまりにも自由に慣れ過ぎて、空気のように、「表現の自由」の大切さを忘れているのではないだろうか?「表現の自由」は憲法の人権規定の中でも「優越的な地位」にある極めて重要な権利である。表現行為は個人の自己実現であるとともに、民主主義の不可欠な大前提だからである。表現の自由がいったん制限され萎縮してしまうと、表現や情報発信自体ができなくなるので、国民の力でこれを回復することは極めて困難である。だからこそ、「表現の自由」の制約は「必要最小限度」でなければならない。

現行法において、表現行為が「生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加える」ものである場合は、脅迫罪・名誉毀損(きそん)罪などの刑法や、慰謝料請求・差止請求などの民法その他の法令によって十分に対応可能であるから、それ以上に新たな規制立法を設けるべきではない。

今回の一連の法案成立過程を見ると、残念ながら、自民党も含めた多くの国会議員に「表現の自由」が侵害されることへの危機意識が感じられない。結局、不利益を被るのは国民である。我々は今後の立法の動きをしっかりと注視していかなくてはならない。

 
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