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「熱血弁護士 堀内恭彦の一筆両断」産経ニュースコラム1月28日(木)掲載されました。

2016/01/28

1月28日(木)、産経ニュースにコラム「熱血弁護士 堀内恭彦の一筆両断」
「表現の自由脅かす「ヘイトスピーチ規制条例」」が掲載されました。
ご一読いただけると幸甚です。

表現の自由脅かす「ヘイトスピーチ規制条例」

去る1月15日、大阪市で「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」が可決された。全国初の「ヘイトスピーチ規制条例」である。この条例は、ヘイトスピーチ(憎悪表現)による被害を受けた大阪市民からの申告などがあれば、市が設置した「大阪市ヘイトスピーチ審査会」の審査結果をもとに、市長がヘイトスピーチと認定し、その概要や団体・氏名を市のホームページなどで公表する、というものである。市外で行われた表現活動であっても内容が大阪市民に関するものであったり、大阪市内で行われたヘイトスピーチをインターネット上で拡散する行為も規制の対象となる。条例制定の背景には、朝鮮学校周辺での街宣活動や在日韓国・朝鮮人に対する抗議活動が社会問題化したことが挙げられる。

しかし、この「ヘイトスピーチ規制条例」は、憲法が保障する「表現の自由」との関連で非常に危険な条例であると言わざるを得ない。

まず大きな問題は、「ヘイトスピーチ」の定義が曖昧なことである。大阪市の条例はヘイトスピーチを「人種や民族にかかわる特定の属性を有する個人・集団を社会から排除すること、その権利・自由を制限すること、憎悪・差別の意識、暴力をあおることなどを目的として、相当程度に侮蔑・誹謗(ひぼう)中傷し、脅威を感じさせ、不特定多数がその内容を知り得るような場所や方法で行われるもの」と定義している。しかしながら、その内容は一義的ではなく、外縁は曖昧である。外縁が曖昧であれば、「このような表現活動はしてはいけないのではないか?」という萎縮効果が働き、自由な言論、情報発信が阻害される。

また、「大阪市ヘイトスピーチ審査会」は、市長が委嘱し議会の同意を得た5人以内の学識経験者らで構成される。しかし、裁判官でもない委員による密室での審査をもとに「ヘイトスピーチ」と認定され、「差別主義者、人権侵害者!」のレッテルを貼られ公表されることは、表現者にとっては回復し難い損失を被ることになる。この点、大阪市のホームページにも「ヘイトスピーチの問題は憲法が保障する権利・自由の相互調整という極めて専門的な問題であるとともに、不確定な概念をもって定義せざるを得ないことから、まずヘイトスピーチ審査会の意見を聴くこととします」と記載されており、自ら、定義自体が不確定であることを認めている。そうであれば、そもそも、そのような不確定な定義をもって国民の重要な権利である「表現の自由」を制限することは許されず、公開の法廷による裁判手続に委ねるべきである。「専門的な問題であり定義が不確定であるから、ヘイトスピーチ審査会を設置する」というのは本末転倒である。

こう見てくると、「ヘイトスピーチ規制条例」は、民主党政権が推し進めていた悪法・人権救済機関設置法案(人権救済法案)の「地方版」とも言える。人権救済法案はかろうじて廃案となったが、現在、全国の100を超える自治体で「国にヘイトスピーチ規制のための法整備を求める意見書」が採択されており、今回の大阪市の条例をきっかけに、地方でも条例制定の動きが加速する可能性がある。

もちろん、他人の名誉を傷つけるような「憎悪表現」が許されないことは言うまでもない。しかしながら、日本は成熟した法治国家であり、いわゆる「憎悪表現」については、現行の名誉毀損罪、侮辱罪などの刑法、慰謝料請求、差止請求などの民法その他の関係法令を適切に運用し、裁判例を積み重ねていくことによって十分に対応可能である。

「差別」「人権」はマジックワードであり、その言葉自体には何の意味もない。問題はその中身である。自虐史観に囚(とら)われた日本人は、「差別」「人権」と聞くと、つい思考停止になりがちであるが、条例や法案のネーミングに騙(だま)されず、その中身と背後勢力の意図を見極めなくてはならない。


 
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