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【タックル法律講話】「取り調べの可視化」でますます難しくなる犯罪捜査! 悪い奴らが野放しになる恐れもあります。
2016/05/17
「取り調べの可視化」でますます難しくなる犯罪捜査!
悪い奴らが野放しになる恐れもあります。
可視化のデメリット
警察庁は、取り調べの「可視化」(取り調べの録画・録音)のために、天井にカメラが取り付けられた取調室の設置を進めいています。昨年末までに全国に約850台を配備し、今年から可視化の試行に入っています。
今までは、取り調べは密室で行われていました。取り調べの前に、被疑者に「言いたくないことは言わなくてもいい」と黙秘権を行使できることを告げなくてはなりません。容疑を否認している容疑者に対して、どこまでしっかりと厳しい取調べをして自白を得ることができるかが取調官の腕な見せどころなのです。
しかし、その取り調べが可視化され、カメラが回っていると分かっている取調室で、被疑者が泣き崩れて本当のことを自白するでしょうか?また、取調官は、調書に書く所と書かない所を微妙に使い分けて情報を得ていきます。麻薬所持の被疑者から入手ルートなどを聞き出したいような場合、取調官は、被疑者に「ここはオフレコで調書には書かないから」と安心させて、情報を聞き出すこともあります。ところが、可視化になればオフレコも記録されてしまうので、被疑者が自らしゃべることは難しくなると思います。
シラを切り通そうとする被疑者に対して、取調官は、押したり、引いたり、揺さぶったりしながら、あの手この手で真実をしゃべらせようとします。取調官は「自白を得るには被疑者との信頼関係が成り立たないとできない」と言います。そうした取調室の一部始終が可視化されれば、取調官の微妙な駆け引きが成り立たたず、自白が得にくくなる恐れがあります。
新たな捜査手法の導入を
日本の刑事裁判は「自白偏重主義」と言われ、可視化推進論者は「そうやって自白を強要するから、冤罪事件が起こってしまう。もっと客観的な証拠を集める努力をせよ。」と言います。
しかし、暴力団などの犯罪組織の案件や「謀議、指示」などの客観的な物証が取れない事件では、客観的証拠を集めることは極めて困難です。それならば、諸外国のように、「おとり捜査」や「通信傍受」などの新たな捜査手法を認めて客観的証拠を得やすくすべきなのですが、可視化推進論者は、これにも反対なのです。
これでは、自白も取れない、客観的証拠も得られない、ということになり、有罪に持ち込むことが難しくなります。犯人が大手を振って世間を歩くことになり、国民の安心・安全を脅かすことになります。
ただ、可視化にもメリットはあります。例えば、取り調べで自白した被疑者が裁判が始まった途端に、「これは警察に脅され、誘導されて、自白したんです。本当はやっていません。」と言い出すケースはよくありますが、今までは、密室だったのでなかなか争うのが困難でした。可視化になれば、録画された映像を見て、弁護士人は「無茶な取り調べが行われた」と冤罪を主張できますし、反対に、検察側としてはちゃんとした手順で自白を引き出したとことを立証できる場合もあります。
要は、デメリットもメリットもある「可視化」で全てが解決するわけではなく、おとり捜査や通信傍受といった新たな捜査手法の導入も同時に検討しなくてはならないということです。それでは、次号で!