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【タックル法律講話】プロ野球のファウルボール直撃で失明したら、球団側に責任あり? 臨場感か、安全か?悩ましい問題です。

2015/05/17

プロ野球のファウルボール直撃で失明したら、球団側に責任あり?
臨場感か、安全か?悩ましい問題です。


確かにファウルボールは危ない

二〇一〇年に札幌ドームの内野席で試合を観戦中、ファウルボールの直撃で右目を失明した三十代の女性が、日本ハムファイターズなどに損害賠償を求めていた裁判で、札幌地裁は球団側に約四千百九十万円の支払いを命じました。球団側は「観客は打球に注意しさえすればファウルボールの直撃を回避できる。事故当時、場内の大型ビジョンやアナウンスで注意喚起しており、十分な対策を講じていた」と主張していましたが、裁判長は「内野席のフェンスではファウルボールを遮ることはできなかった。球場の設備は危険を防止するに足りず、安全性を欠いていた」と指摘しました。
敗訴した球団側は「野球観戦の本質的な要素である臨場感が失われる。また、野球界全体に及ぼす影響も十分に考えられ、控訴を視野に検討したい」とコメントしています。
しかし、球団側がどんなに安全策を講じてもこうした事故は起きるでしょうし、過去にも起きています。確かにファウルボールは危ないですよね。特に、女性、子供、お年寄りは直撃を避けられないのではないでしょうか。打球を注意して見ていろと言われても、おしゃべりやお酒を呑んだり弁当を食べたりしていますから、ずっと見ている人はいないでしょうね。


約款は無効?

もともと、プロ野球の「試合観戦契約約款」では、「打球事故に関して球団側は責任を負わない」規定されており、賠償するケースになってもその範囲は「治療費」などの直接被害に限定されています。このことは、観戦チケットにも明記されています。つまり、「ファウルボールなどの直撃も覚悟して、野球を観戦して下さい」ということなのです。
ところが、今回の裁判では、この約款の効力が認められなかったのですから、この判決が確定すれば野球界全体に大きな影響が出るでしょう。
最近では、さらに臨場感を出そうと、より近い位置で観戦できる特別シートを新設したりしていますが、単にメジャーリーグを真似して、いたずらに臨場感を煽るやり方では、もう通用しません。日本独自の安全策を講じる必要があると思います。
これからも痛ましい事故が起きれば、「危ない所には行きたくない」という人が増えるかもしれません。新しいファン層は獲得したいが、安全対策が行過ぎると本来の臨場感が損なわれ、従来のファン層の野球離れが進んでしまう・・・。今回の裁判は、野球界にとって大きなジレンマとなりそうです。それでは次号で!