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【タックル法律講話】性犯罪者の再犯を防ぐための治療に税金を投入? 強制力がないと実効性には疑問符。 社会防衛的な発想が必要な時期に来ています。

2018/10/02

性犯罪者の再犯を防ぐための治療に税金を投入?
強制力がないと実効性には疑問符。
社会防衛的な発想が必要な時期に来ています。

出所後の治療が大切

 法務省は、性犯罪で服役し出所した元受刑者らに対し、国費で投薬や認知行動療法を受けさせる制度を整備する方針を固めました。性犯罪の再犯防止をめぐっては、平成18年から刑務所内で認知行動療法に基づく「性犯罪再犯防止指導」が行われていました。その効果については、指導を受けた受刑者は受けていない受刑者よりも再犯率が低くなる傾向がみられるといわれています。
 しかし、例えば、今年5月に逮捕された岡山県津山市の小3女児殺害事件の容疑者は、別の事件で服役中にこの改善指導を受けたものの、再び出所後に女子中学生殺人未遂事件を起こしています。「再犯防止指導の効果が上がらなかった」とも指摘されており、まだまだ課題が残っています。
 性犯罪の再犯防止に取り組んでいる精神科医は、「刑務所の中には誘惑がなく、淡々と指導を受けるだけになってしまう。出所後の一般社会のようにリスクのある状況でも性犯罪をやめられるようにしないと意味がない。」として、刑務所内だけでの指導には限界があると指摘しています。出所後の治療は認知行動療法と性欲を抑える内服薬の処方で、再犯率は3%にとどまるなどの効果も出ています。
 ただ、治療は保険適用外のため、月に約3万円の治療費がかかります。そこで、この治療費を国が負担してあげよう、というのです。

社会防衛の観点も必要
 
 今回の法務省の新しい取り組みは、社会復帰した元受刑者に対して、国費を使って治療を受けさせるということであり、意味ある取り組みだと思います。
 ただ、この治療はあくまでも任意ですので、義務付けをしないとなかなか治療を受けないのではないでしょうか?「治療費は国が出してくれるから」ということであっても、わざわざ自分から治療を受けに行く人がどれだけいるでしょうか?実効性に疑問符がつきます。
 しかし、刑を終えて出所した人に治療を義務付けるとなると、新たな強制を課すことになりますから、「人権侵害だ!」と騒ぎ立てる人達も出てくるでしょう。
 しかし、被害者が受ける肉体的・精神的苦痛を思うと、性犯罪の再犯防止は喫緊の課題です。米国や韓国などは衛星利用測位システム(GPS)の端末を性犯罪常習者に埋め込んで監視するシステムを導入しています。また、小2女児殺害事件が起きた新潟県の県議会は、同様の監視システム導入を国に求める意見書を賛成多数で採択しています。
 日本では、「人権」などのマジックワードのもと、なかなか対策が進んでいないのが実態です。日本の刑罰は「応報刑」ですから、刑を終えたらそれ以降は義務を課せられるべきではない、ということになります。一方の「改善・教育刑」の考えは、社会防衛の観点から、「改善するまで社会に出さない」というものです。実際に、性犯罪の再犯が後を絶たないという事実があるのですから、社会防衛の観点から、「改善・教育刑」的な刑のあり方も模索する必要があるのではないでしょうか?応報か、社会防衛か、難しい問題ですが、真剣に議論する必要があると思います。それでは、また次号で!