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【熱血弁護士 堀内恭彦の一筆両断】ゴーン氏逮捕「司法取引」の課題

2018/11/26

11月26日(月)、産経ニュースにコラム「熱血弁護士 堀内恭彦の一筆両断」
「ゴーン氏逮捕「司法取引」の課題」が掲載されました。
ご一読いただけると幸甚です。

ゴーン氏逮捕「司法取引」の課題

日産自動車の会長、カルロス・ゴーン氏が逮捕された。容疑は有価証券報告書に自らの報酬を過少に記載(虚偽記載)したという金融商品取引法違反。

現時点では真偽は不明であるが、「虚偽記載に関わった日産の関係者が捜査に協力することで、東京地検特捜部と『司法取引』が成立した」との報道がなされており、われわれ法曹関係者は「司法取引」の運用に強い関心を持っている。

今年6月から導入された日本版「司法取引」は、被疑者や弁護人が捜査機関と協議し、「他人」の刑事事件の捜査に協力する代わりに、自らの犯罪を不起訴または求刑を軽くしてもらうことを合意するものである。これは組織的な犯罪の解明を目的として導入されたものであり、欧米のように自らの犯罪を認める代わりに自らの量刑を軽くしてもらうという方式は採用していない。

また、日本では、国民の理解が得られやすいとの理由から、企業が関わる経済犯罪、薬物・銃器犯罪、組織的詐欺などに限定されている。

この「司法取引」のメリットは、今まで解明・立証が困難であった経済犯罪や組織的犯罪などの情報を得やすくなり、迅速な立件が可能となる点にある。

しかし、他方で、自らの刑を軽くしたいがために、嘘の供述によって他人を巻き込み、冤罪(えんざい)を生む恐れも指摘されている。

被疑者は、捜査官から「他人の犯罪を証言すれば罪は軽くなるぞ」と利益誘導されれば、捜査官のストーリーに沿った嘘の供述をしてしまう可能性が高い。そして、ひとたび嘘の供述をした後でこれを覆すと、司法取引の恩恵が受けられない上に、5年以下の懲役に処せられてしまうことから、最後まで嘘の供述を貫こうとしてしまう。

さらに、日本では、欧米と異なり、量刑のガイドラインがないため、どの程度の司法取引を行えばどの程度の刑の減免を受けられるのか? という予測ができない。そのため、被疑者は、刑を減免してもらえることをやみくもに期待して、過剰な司法取引を申し出ることが多くなるであろう。

これに対しては、「司法取引には『弁護人の同意』が必要であるから、弁護人がきちんとチェックしさえすれば冤罪は防げる」との意見がある。

しかし、容疑の段階では弁護側に証拠書類は開示されないのであるから、司法取引に同意するか否かを判断する客観的な材料はなく、結局は、被疑者の話だけに頼らざるを得ない。弁護している被疑者から「司法取引に応じたい」と言われれば、弁護人がその意向を無視することは現実的に困難である。

また、今回のゴーン氏の事件では、虚偽記載の事実自体は客観的に明らかなのであるから、そもそも「捜査協力」という「司法取引」の要件を満たしているのか? という疑問も残る。

かように課題が多い「司法取引」であるが、今後、暴力団や組織犯罪対策において有効な捜査手法となり得ることも期待されている。そのためにも、冤罪防止のための法整備と運用は不可欠であろう。

今後、ゴーン氏の派手な私生活などがスキャンダラスに報じられていくだろうが、冷静に、捜査の進め方と手続きを注視し、「司法取引」のあり方を考えたい。

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