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【タックル法律講話】「中味が現金だとは知らなかった」 特殊詐欺の「受け子」に逆転有罪判決の可能性? 「故意」を立証するのは困難です。未然の防止策の充実を!

2018/12/04

「中味が現金だとは知らなかった」
特殊詐欺の「受け子」に逆転有罪判決の可能性?
「故意」を立証するのは困難です。未然の防止策の充実を!

難しい「故意」の立証

特殊詐欺で逮捕・起訴された「受け子」役の男性が「宅配便の中身が現金だとは知らなかった」と主張し二審で無罪となった裁判で、最高裁が上告審弁論を開くことになりました。弁論を開くということは判決が変更される可能性があることを示しますので、無罪判決が取り消され、詐欺罪が認定される可能性が出てきました。
捜査関係者は「有罪となれば捜査にとって追い風になる」と期待する一方、「本当に事情を知らない人も罪に問われるリスクがあり、より慎重な認定が必要だ」との指摘もあります。
男性は、知人から 「指示された場所に宅配便で届く荷物を受け取って、他の場所まで運ぶ仕事がある」と言われ、指示された東京や神奈川などのマンションの空き部屋で宅配便を受け取って運んでいました。報酬は一回一万円。男性は「荷物の中身は説明されていないので知らないが、拳銃か違法薬物だと思っていた」と主張し、二審判決は「誰もが特殊詐欺と関連づけて考えられるとはいえない」として無罪としました。
最終的に最高裁の結論がどうなるかは分かりませんが、今後の特殊詐欺の捜査に与える影響は大きいと思います。
ポイントは男性の「詐欺の故意」を立証できるかどうかです。男性は「中味は違法薬物か拳銃だと思った」と主張し続けました。起訴事実は詐欺罪ですから、「詐欺の被害品という認識があったかどうか」が争点になります。「まさか現金とは思わなかった」と子供じみた言い訳に聞こえるかもしれませんが、これによって、二審は無罪となったのであり、それほど「故意」の立証は難しいものなのです。漠然と「何らかの犯罪に関与しているのでないか?」程度の認識では、「故意」があったとは認定できないのです。

各業界における対策・義務付けが必要

このように「故意」の立証が難しい特殊詐欺ですが、平成二十九年の認知件数は前年比で約四千件増の約一万八千件。七年連続の増加で、被害総額は約四百億円に上りますから、その対策は急務です。「知らなかった」と言い訳されてしまえば、有罪に持ち込むことが難しくなりますので、やはり、事前の予防策を講じなければなりません。
例えば、金融業界では、特殊詐欺を防ぐために、一回で振込みできる金額を下げたり、ATMで係員がしっかりと対応するなど対策を講じています。
また、携帯電話業界では、ヤミ金が悪用する「所有者不明の携帯電話」(いわゆる「とばし携帯」)の使用を防ぐために、携帯会社に本人確認が義務付けられました。
これと同じように、宅配業者にも中味や受取人の確認を義務付けるなどの措置を検討すべきではないでしょうか。金融、通信、運送などの技術の発達によって、これを利用する複雑な犯罪が増えている現状では、これらの技術で利益を得ている業者においても一定の負担をしてもらい、犯罪防止の対策を講じていくことが必要不可欠です。 それでは次号で!