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【タックル法律講話】「あおり運転」による死亡事故、被告に懲役18年! 「速度ゼロ」に危険運転致死傷罪が適用されるのか?

2019/02/01

「あおり運転」による死亡事故、被告に懲役18年!
「速度ゼロ」に危険運転致死傷罪が適用されるのか?


「重大な危険を生じさせる速度」とは?

神奈川県の東名高速道路で「あおり運転」を受けて停車させられた夫婦がトラックに追突され死亡した事件で、建設作業員・石橋和歩(かずほ)被告に、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)などで、懲役18年(求刑懲役23年)の判決が言い渡されました。裁判長は「四度の妨害運転後に停止させたのは密接に関連した行為といえる。死傷の結果は妨害運転によって現実化した」と述べ、被告のあおり運転と夫婦の死亡に因果関係があると認定し、危険運転致死傷罪が成立すると判断しました。
一方で、裁判長は、「高速道路上で停車させた『速度ゼロ』の状態が同罪が定める『重大な危険を生じさせる速度』とするのは解釈上無理がある」、「停車状態で大きな事故が生じたり、事故の回避が困難になったりするとは認められない」と指摘しました。
裁判長の指摘を一読すると、「?」と首を傾げる読者もいるでしょう。危険運転致死傷を認めながら、「重大な危険を生じさせる速度」と解釈するのは無理、と言うのですから、分かりにくいですよね。
危険運転致死傷罪は平成25年から施行された新しい法律であり、「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」を処罰の対象としています。これを素直に読むと、「運転中の行為」を想定したものであり、停車している「速度ゼロ」では適用できません。
ですから、弁護側が「法律を厳格に適用すべきであり、『速度ゼロ』では危険運転致死傷罪の適用はない」と主張していたのも無理はありません。弁護側の主張が認められれば「業務上過失致死罪」にしか問えないので、刑がとても軽くなります。刑罰の具体的内容が事前に法律で定められていなければ処罰されないという「罪刑法定主義」の下では、弁護側の主張にも頷ける点があります。


控訴審では逆転の可能性も

しかし、一方で、4回も悪質な妨害運転を繰り返して停車させ、子供たちの目の前で両親が死亡したという悲惨な事件です。一般人である裁判員たちは「許せない!重い刑にすべきだ!」という感情に駆られたことでしょう。
そこで、裁判長は、「4回の妨害運転が死亡という結果に繋がったから、その因果関係をもって危険運転致死傷罪を適用した」と述べています。つまり、停車自体を危険運転ととらえるのは無理があるが、4回の妨害運転の結果で死亡したとすれば、「動いている」、つまり「速度ゼロ」ではない、と解釈できると判断したのでしょう。法律家としては、苦渋の理論ですね。「許せない!厳罰に処すべき!」という裁判員や世論を意識しての判決だったのかもしれません。
この判決に対して、弁護側は控訴しました。控訴審は、裁判員裁判ではなく、裁判官だけの判断ですので、「罪刑法定主義」の原則からは、危険運転致傷罪が適用されず、逆転判決になる可能性もあります。
ただ、いずれにしても、「あおり運転」が危険極まりなく、卑劣で許せない行為であることには間違いありません。今後は、法律を改正し、「速度ゼロ」による事故でも処罰が可能になるようにすべきではないでしょうか。それでは次号で!