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【熱血弁護士 堀内恭彦の一筆両断】条例でヘイトスピーチに「罰則」加速する危険度
2019/09/17
9月15日(日)、産経ニュースにコラム「熱血弁護士 堀内恭彦の一筆両断」
「条例でヘイトスピーチに「罰則」加速する危険度」が掲載されました。
ご一読いただけると幸甚です。
条例でヘイトスピーチに「罰則」加速する危険度
9月11日、神奈川県川崎市議会において、市が成立を目指す「差別のない人権尊重のまちづくり条例(仮称)」案の審議が行われた。条例案は外国にルーツのある人への差別的言動(いわゆる「ヘイトスピーチ」)を繰り返し、勧告・命令に従わない場合、氏名を公表し、最高50万円の罰金を科すというものである。これは憲法が保障する「表現の自由」を脅かす極めて危険な条例案である。
平成28年に成立した「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(ヘイトスピーチ解消法)は理念法にとどまり、罰則などの行き過ぎた内容は盛り込まれなかった。しかし、懸念した通り、現在、地方自治体レベルでは川崎市のように罰則付きの条例を制定しようという動きが活発になっている。この一連のヘイトスピーチ規制は、外国人への差別的言動だけを禁じ、日本人への差別的言動は全く禁じていない。
何よりも大きな問題は、「ヘイトスピーチ」の定義が極めて曖昧で不明確なことである。今回の川崎市の条例案は、ヘイトスピーチ解消法と同じく、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」とは、「専ら本邦の域外にある国もしくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(本邦外出身者)に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加える旨を告知するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動(せんどう)する不当な差別的言動である」と定義している。
しかし、この定義を読んでも、一般国民は、何がヘイトスピーチであるかを明確に理解することは難しいであろう。
定義が曖昧で不明確であれば、「この言い方や表現だと罰せられるのではないか?」との不安から、国民の自由な言論や情報発信は萎縮してしまう。また、「反日」を掲げる近隣国の「本邦外出身者」に関する歴史的事実を指摘し正当な批判や論評をすることも、「差別的意識を助長するヘイトスピーチだ!」と非難されてしまう危険性がある。
表現の自由がいったん制限され萎縮してしまうと、表現や情報発信自体ができなくなり、国民の力でこれを回復することは極めて困難となる。だからこそ、「表現の自由」の制約は「必要最小限度」でなければならないのである。他人を傷つける「憎悪表現」が許されないことは言うまでもないが、現行の民法や刑法で規制することが可能なのであるから、表現の自由を制限してまで、あえて新たな立法措置をする必要性はない。
また、ヘイトスピーチの認定は、市長が委嘱する5人以内の学識経験者で構成される「差別防止対策等審査会」の意見をもとに行われる。しかし、裁判所のように事実認定のプロでもない密室の審査会によって「ヘイトスピーチ」と認定され「差別主義者」として公表されてしまうことは、表現者にとっては回復し難いダメージとなる。
私たちは「ヘイトスピーチ」というレッテル張りに惑わされず、条例案の具体的内容と危険性をしっかりと把握し、「表現の自由」が侵害されることの危機意識を共有しなければならない。
川崎市は12月議会で条例案を提出し、来年7月の全面施行を目指している。今後、ますます、全国各地でこのような罰則付きの条例制定の流れが加速していくだろう。「一地方の話だから、条例だから」と楽観していると、取り返しのつかないことになる。
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