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【タックル法律講話】香川県の「ゲーム依存対策条例」は高校生の幸福を侵害する? 何でもかんでも「科学的根拠」を求める悪しき風潮には毅然と対峙しなくてはなりません

2021/02/02

香川県の「ゲーム依存対策条例」は高校生の幸福を侵害する?
何でもかんでも「科学的根拠」を求める悪しき風潮には毅然と対峙しなくてはなりません


幸福追求権の侵害?

子供のゲーム利用時間を制限する香川県の「インターネット・ゲーム依存症対策条例」は憲法13条の幸福追求権などを侵害し違憲であり、精神的苦痛を受けたとして、高松市の高校3年生の男子とその母親が、香川県に計160万円の損害賠償を求める裁判が始まりました。
この条例は、18歳未満のゲーム利用は1日60分(学校休業日は90分)まで、スマートフォンの使用は中学生以下は午後9時、それ以外は午後10時までにやめさせることを目安に、家庭でルールを作って子供に順守させる努力義務を保護者に課しています。罰則はありません。こうした内容の条例は全国初です。
訴状によると、政府が「ゲーム依存症の発症を防ぐための時間制限に係る有効性および科学的根拠は承知していない」と見解を示していることなどから、条例に科学的正当性は認められないと主張。仮に正当性が認められても、「親や子供には何時間ゲームをするかを決める自由があり、条例は基本的人権を必要以上に制限しており違憲である」としています。
県側は答弁書で、原告側に、「条例によって受けた不利益の詳細を明らかにするように」と求めました。
確かにゲーム依存症を防ぐための有効性と科学的根拠を政府自体が認めていませんから、原告の高校生の主張は一見、正当性があるように映ります。しかし、罰則はなくあくまでも努力目標を定めた条例ですから、県が不利益の詳細を求めるのも当然です。
裁判所は、条例の「目的」と「手段」を検討して、違憲か否かを判断します。
条例の「目的」は「青少年の健全な育成」ですから、妥当と判断されるでしょう。つまり、「早寝早起き」と同じで正しい生活習慣を身につけさせようという目的自体には問題がないと思います。
そして、条例の「手段」は、家庭に対して「時間制限というルールを作りなさい」というものであり、しかも、罰則はありません。
したがって、裁判所としては、「違憲とまでは言えない」とし、また、原告の高校生や母親は具体的な損害や不利益を受けていない、と判断すると思われます。

科学的根拠が全てではない

しかし、この訴訟は問題提起としては面白いし、原告の理屈を突き詰めれば裁判所としてもそれなりに説得力のある判決文を書く必要があります。仮に地裁が棄却しても控訴して最高裁まで争われるでしょう。
もう一つ、気になるのが「科学的根拠」という言葉です。つまり、科学的根拠がなければ、教育的指導は出来ないのかということです。「早寝早起き」、「礼儀」、「しつけ」に科学的根拠があるかと言えば、ありません。
しかし、生活習慣、道徳、規律、歴史、伝統、文化に科学的根拠が必要なのか。そうした「常識」「通念」にも科学的根拠があるかどうか・・・何でも科学的根拠を求める、最近の風潮には疑問を感じますね。
科学で解明できないことは世の中に一杯あります。この科学的根拠というマジックワード、屁理屈に社会が振り回されるのも問題ではないかと思います。裁判の行方が注目されますね。それでは次号で!