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【タックル法律講話】ウソの住所で「欠席裁判」! 「判決詐欺」を防ぐには、裁判所のチェックだけでは限界も・・・ 制度改革が必要です。

2021/05/10

ウソの住所で「欠席裁判」!
「判決詐欺」を防ぐには、裁判所のチェックだけでは限界も・・・
制度改革が必要です。


「付郵便送達」を悪用

先日のニュースで、「裁判手続の『穴』突いたか…ウソの住所かたられ「欠席裁判」知らぬ間に敗訴」という報道がありました。報道によると、知らない間に裁判を起こされた女性経営者に対し、久留米簡易裁判所が未払い賃金の支払いを命じる判決を言い渡し、女性の預金が差し押さえられました。元従業員の男が女性の住所を偽って提訴したため、女性に訴状が届かず、「欠席裁判」になったのです。
訴状が相手に送達できなくても審理を進めることができる民事訴訟の制度が悪用されたケースで、最高裁は全国の裁判所に注意喚起しました。
報道によると、久留米市でラウンジを経営する女性は昨年、会社名義の預金に対し身に覚えのない差押えがされていることに気づきました。これは、元従業員の男が未払いの支払いを求めて簡裁に提訴しましたが、女性のもとには訴状は届かず、出廷も反論もできないまま、請求どおりの判決が確定していたためです。
民事訴訟では通常、裁判所が原告から提出された訴状を被告に郵送し、受け取りを確認して審理が進められますが、居留守や受け取り拒否で訴状の受け取りが確認できない場合は、「付郵便送達」を実施できます。この制度は、訴状を書留郵便で発送した時点で「送達完了」とみなすものですが、これが悪用されたのです。
私が弁護士の世界に入った時、「いつかはこうした犯罪が起きるだろう」と思っていました。なぜなら、この「付郵便送達」制度に穴があるのは明白だからです。

裁判所は「性善説」

今回、男が訴状に記した被告の住所は女性と無関係のビルでした。簡裁はこの住所に訴状を送りましたが、当然、返送されてきました。裁判所が男に調査を求めたところ、男は「部屋から出てきた女性に声をかけたが、無言でタクシーに乗り込んだ」という嘘の報告書を簡裁に提出したため、簡裁は女性がビルに住んでいると信じ込み、付郵便送達を実施したのです。結局、女性は何も知らされないまま裁判が開かれ、判決が確定してしまいました。
結局、女性は再審(裁判のやり直し)を請求し、この判決は取り消されました。マスコミの調べでは、男は別の3人に対しても同じ手口の訴訟を起こしていました。
いわゆる「判決詐欺」ですね。訴状が送達できない場合、いったん、裁判所は原告に被告の所在の調査を命じますが、裁判所は「性善説」ですから、男の虚偽の報告を信じてしまったのです。
弁護士が就いている案件であれば虚偽報告などしないでしょうが、今回のように本人訴訟の場合は虚偽報告もあり得ます。また、簡裁はサラ金の過払い請求など案件が多く、結構いい加減ですので、いちいち精査もしません。その「穴」を突かれたわけです。
裁判を迅速に進めたい原告の利益ときちんと送達を受けるべき被告の利益をどう調整するかという問題ですが、裁判所のチェックだけでは限界があります。今後は制度改革が必要ですね。それでは次号で!