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【熱血弁護士 堀内恭彦の一筆両断】暴力団トップへの極刑判決 今こそ総合的な対策を

2021/09/07

9月6日(月)、産経ニュースにコラム「熱血弁護士 堀内恭彦の一筆両断」
「暴力団トップへの極刑判決 今こそ総合的な対策を」が掲載されました。
ご一読いただけると幸甚です。

暴力団トップへの極刑判決 今こそ総合的な対策を

去る8月24日、市民が襲撃された4事件の首謀者として殺人罪などに問われた北九州市の特定危険指定暴力団・工藤会のトップに対し、福岡地裁は死刑を言い渡した。判決は直接証拠がない中で多くの関係者の証言から「厳格な上意下達の組織性」があるとし、「トップの承諾なく組員が重大事件を起こすことは考えられない」との立論で指揮命令を認定した。

まだ一審段階の判決であり、今後、高裁、最高裁へと審理が続くと思われるが、この判決が今後の暴力団捜査の武器となる可能性はある。

しかし、暴力団側もますます組織の隠蔽(いんぺい)を図り、情報統制や証拠隠滅を徹底するなど、いわゆる「マフィア化」を加速させていくであろう。これに対応するには何よりも新たな立法も含めた総合的な暴力団対策が急務である。

暴力団対策で最も効果があるのは言うまでもなく「逮捕・検挙」。しかし、警察も法律の範囲内でしか動けないので、現状は情報を得ることが難しく、なかなか犯人検挙に結びつかない。そこで「情報を得るにはどうすればいいか?」という発想で、暴力団がマフィア化していくのであれば、諸外国のマフィア対策法を取り入れるなど新しい捜査手法を導入すべきである。

例えば、組織のことを話せば刑を軽くするという「司法取引・刑事免責」、身分を隠して組織に潜入する「おとり捜査」、電話での会話をキャッチする「通信傍受要件の緩和」などである。

また、暴力団の資金源を断つことも重要となる。海外の一部ではマフィアの金はマフィア側が「違法な収益ではないこと」を立証しない限り、没収や課税が可能とされている。日本でもこのような没収・課税制度を作ることによって資金源を断つことが容易になる。さらに、米国には「RICO法(米国組織犯罪規制法)」があり、犯罪組織のメンバーというだけで逮捕される。マフィアの存在そのものを非合法化しており、日本でも一考に値する。

加えて、暴力団による被害者の民事的な救済も重要課題である。暴力団が一般市民を殺傷したり、恐喝したりすれば刑事事件として処罰されるが、被害者の生命・身体、財産上の損害など民事上の被害はほとんど回復されない。暴力団の言葉を使えば、刑事的な「落とし前」はついたかもしれないが、民事的な「落とし前」はついていない。これを放置してはいけないということで、われわれ弁護士は民事介入暴力対策として被害者救済に取り組んでいる。

しかし、やはり一般市民が暴力団相手に訴訟を起こすのには大変な勇気がいる。怖いし、精神的重圧も大きく、泣き寝入りしている被害者は少なくない。

ここでも新しい法律を作る必要がある。例えば、被害者に代わって国や自治体が訴訟を起こせるようにするなど、公的機関が前面に出て対応する法律である。

他方で、暴力団から離脱したいという者の支援や社会復帰の援助にも積極的に取り組まなくてはならない。わが福岡県では離脱した元組員を雇用した企業に給付金を出すなどしており、この制度が全国に広がることを期待したい。

また、ドラマの世界のヤクザを見て憧れる青少年に「現実は格好いいものではない」と教えるのも大人の役割であり、教育・啓蒙(けいもう)活動もさらに推進していきたい。

このように今後の暴力団対策には総合的な対策が必要であり、新たな立法が不可欠である。国民の生命・身体・財産を守るのは政治家の仕事であり、国会議員の皆さんには是非真剣に取り組んでいただきたい。私たち国民も声をもっと大きくして国会に伝え、立法化につなげていかなければならない。

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