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【タックル法律講話】暴力団トップに死刑判決! 画期的な判決ですが、まだまだ総合的な対策が必要です

2021/10/04

暴力団トップに死刑判決!
画期的な判決ですが、まだまだ総合的な対策が必要です

難しい判断

8月24日、市民が襲撃された4事件の首謀者として殺人罪などに問われた北九州市の特定危険指定暴力団・工藤会のトップに対し、福岡地裁は死刑を言い渡しました。判決は、直接証拠がない中で多くの関係者の証言から「厳格な上意下達の組織性」があるとし、「トップの承諾なく組員が重大事件を起こすことは考えられない」との立論で指揮命令を認定しました。指定暴力団最高幹部への死刑判決は国内初です。
「死刑には2人以上の殺害」といういわゆる「永山基準」によると、今回の死者は元漁業組合長1人だけですので、基準には当てはまりません。そのため、死刑ではなく無期懲役もあり得ましたが、裁判所は一歩踏み込んで、悪質性、組織性、社会的影響などを考慮して死刑を選択しました。
事実認定、量刑ともに、難しい判断を迫られた判決ですので、控訴審、上告審で判決が覆る可能性はあります。「疑わしくは被告人の利益に」「推定無罪」という原則を厳格に貫けば、控訴審が「指揮命令を認めるに足りる証拠はない」として、無罪となることもあり得ます。
特に、元漁業組合長殺人事件は20年以上も前の事件ですから、「指揮命令があった」と認定するには大きなハードルがあると思います。

総合的な対策を

それでも、今回の判決は今後の暴力団捜査に影響を与えるでしょう。「直接的な命令がなくても暴力団の上意下達という強固な組織性を証明できれば、トップの刑事責任を問える」という有罪認定の方法が採用されたのです。今までは実行犯が口を割らなければトップに司法の手が及びませんでしたが、今後は実行犯が自白しなくても「暴力団特有の強固な組織性」を立証すれば、有罪に持ち込めることになります。
今回の裁判では、約90人もの証言をもとに工藤会の組織性を綿密に立証し、トップの承諾なく組員が重大事件を起こすことはあり得ない、という消去法的な理論構成によって指揮命令を認定しました。工藤会の悪質性・狂暴性があまりにも際立っていたため、世論も納得する部分は多いでしょう。
しかし、この消去法的な理論構成が全ての暴力団にあてはまるわけではありませんし、暴力団側も、今後さらに、実行犯が逮捕されないよう徹底した逃亡・証拠隠滅を図ることが予想されます。
いずれにしても、この判決だけで暴力団対策が解決するわけではなく、あらゆる総合な対策をとっていくことが肝要です。暴力団のマフィア化に対応するために「司法取引・刑事免責」「おとり捜査」「通信傍受の緩和」など新たな捜査手法を導入する、資金源を断つために違法収益への没収・課税制度を作る、暴力団による被害者救済のために被害者に代わって国や自治体が訴訟を起こせる制度を作る、などです。
他方で、暴力団から離脱したいという者の支援や社会復帰の援助に取り組み、青少年に暴力団の悪質性を教える教育・啓蒙活動を充実させることも大切です。
これらの制度を実現させるためには、私たち国民の声を大きくして法制化に結び付けていくことが重要ですね。それでは次号で!