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【タックル法律講話】逮捕で氏名を公表する意味は?ましてや住所まで? 「推定無罪の原則」 を忘れてはいけません

2022/01/06

逮捕で氏名を公表する意味は?ましてや住所まで?
「推定無罪の原則」 を忘れてはいけません


ひとつの記事で人生が台無しに

「逮捕を報じた記事で氏名の他に地番入りの住所まで書かれてプライバシーを侵害された」として、静岡県内に住むブラジル国籍の夫婦が静岡新聞社に計660万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、裁判長は「違法なプライバシー侵害には当たらず、記事の掲載時点で地番公表が一律に許されないとする社会通念はなかった」として記事は適法と判断。プライバシー侵害を認定し計66万円の賠償を命じた一審静岡地裁判決を取り消し、夫婦の請求を棄却しました。
夫婦はブラジル国籍で、覚醒剤取締法違反などの容疑で逮捕され、記事に逮捕容疑や氏名、職業、地番を含む住所などが書かれましたが、その後、夫婦は「嫌疑不十分」で不起訴となっていたという事案です。
控訴審の判決理由で裁判長は、逮捕記事での地番情報は「プライバシーに関わり法的保護の対象」とする一方、「重大犯罪の容疑者特定は公共の利害に関する重要な事項として報道される必要性が高く、プライバシー保護に優越して表現の自由が保障される」と指摘。地番表記について報道各社の方針は一定でなく、インターネット上での風評被害の拡大なども踏まえ「社会的な議論が期待される」としつつ、「地番記載の有無で、私生活上の平穏が妨げられる恐れに格段の違いがあったかは明らかではない」と結論づけました。
会見した夫は、逮捕報道で自宅に見知らぬ人物が押しかけるなどの被害があったとした上で「日本に来てゼロから日本語や文化を覚えて苦労しながら生きてきた。ひとつの記事で人生をゼロに戻すことが正しいのか」と訴え、上告する意向を示しました。

警察発表を鵜吞みにするメディア

そもそも、逮捕されただけで容疑者の氏名を公表する必要があるのでしょうか?
逮捕段階ではあくまでも「推定無罪」です。後に有罪が確定すれば氏名を公表する意味はあるかもしれませんが、逮捕されても「嫌疑不十分」、あるいは、判決で無罪となることもあります。「誤認逮捕」のケースもいくらでもあります。逮捕で氏名が公表されてしまっても、その後の結果はほとんど記事にされないのですから、名誉回復できる機会もありません。
本件では、氏名のみならず、地番まで掲載しているのですから、問題です。一審の裁判長は新聞側の非を認めたのに、一審をひっくり返した二審の裁判官はその理由を「地番公表が一律に許されないとする社会通念はなかった」と言っていますが、これは論理の飛躍でしょう。
こうした逮捕の情報はほとんどが警察発表です。しかも全ての逮捕事案を平等に発表しているわけではなく、世間の耳目を集めそうな事案に偏る傾向があります。
警察の発表をそのまま記事にしてしまうメディアの姿勢も改めるべきでしょう。「誤認逮捕」であれば、その人の人生を崩壊させてしまう危険性もあります。日頃から「人権、人権!」と声高に主張しているメディアだからこそ、警察との関係においても緊張感を持って人権感覚を磨いてもらわなくてはなりません。
今年もよろしくお願いします。それでは次号で!