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【タックル法律講話】無罪判決を受けた男性が警察に指紋などの捜査情報の削除を要求! プライバシー権と治安維持のバランスをとらなくてはなりません

2022/03/02

無罪判決を受けた男性が警察に指紋などの捜査情報の削除を要求!
プライバシー権と治安維持のバランスをとらなくてはなりません



「真っ白な私に戻してほしい」

無罪判決が確定した男性が、警察が「被疑者データベース」として保管するDNA型、指紋、顔写真データの削除を求めた訴訟で名古屋地裁はデータの削除を国に命じる判決を言い渡しましたが、1月31日、国はこれを不服として控訴しました。
地裁判決は「犯罪の証明がないとして否定され確定した以上は、それ以降の保管の根拠が薄弱だ」と指摘。「指紋及びDNA型がデータベース化され半永久的に使用される状況があれば、程度はともかくとしても、国民の私生活上の利益に対する制約が看取できるものといわざるをえない」と述べました。
男性も「削除を命じた判決は、事件前の真っ白な私に戻すよう国に命じてくれた。警察が一般人のものであっても一人でも多くのデータを集め、一度集めた物は絶対に消したくないと考えているなら怖いことだ」と語っていました。
男性は自宅近くの高層マンション建設に反対する住民運動に参加し、平成28年、現場責任者を突き飛ばしたとして愛知県警に暴行容疑で現行犯逮捕。DNA型や指紋を採取され、同罪で起訴されましたが、名古屋地裁は無罪判決を言い渡し確定していたのです。
今回の国の控訴に対し、男性の弁護団は「国の対応は、最も尊重されるべき人権よりも捜査の便宜を優先したものであり、はなはだ遺憾」との声明文を出しました。

法的整備が必要

確かに、自分の情報をむやみに把握されないというプライバシー権があります。
他方で、警察とすれば、データベースを充実させることが容疑者検挙に繋がるわけですから、「無罪だから、全て削除せよ」となってしまうと治安維持上も大きな影響が生じてしまいます。
「無罪だから削除」となれば、ましてや「不起訴」の場合は裁判にすらかけられていなわけですから、これも削除要請できるということになります。全く事件性がないにもかかわらず、指紋やDNAを採取することはあってはならないことですが、一応の合理的疑いがあって捜査を始めた過程で取得したデータまで削除せよとなると、警察にとっては由々しき事態となります。
現在、警察のDNA型の「被疑者データ」の登録件数は累計153万件超。DNA型は毎年15万件ペースで収集され、データベース化されています。もともとは法的根拠のないDNA型採取が「任意捜査」の名目で着々と進められているという現実もあります。
そもそも、日本では、DNA型の収集や保管をルールづけたものがないということが問題です。プライバシー権と捜査・治安維持の公益性のバランスをとらなくてはなりません。適切なルール作り、法整備を急ぐべきではないでしょうか。それでは次号で。