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【タックル法律講話】保釈中の被告人にGPS装着!
逃亡しやすい環境下では適切な折衷策です
問題は装着するGPSの技術開発です
2023/04/03
保釈中の被告人にGPS装着!
逃亡しやすい環境下では適切な折衷策です
問題は装着するGPSの技術開発です
「大金を捨ててまでも逃亡しないだろう」という前提
先日、保釈中の被告人に衛星利用測位システム(GPS)を搭載した端末を装着させる制度の導入を柱とする刑事訴訟法などの改正案が閣議決定されました。日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告の逃亡事件などを契機に議論が進められてきたもので、政府は公布後5年以内の導入を目指しています。ただ、端末の性能や逃亡を図った被告人の身柄を確実に確保するシステムの構築など、実務面での課題は多いようです。
国内では平成30年から令和元年にかけて、被告人や容疑者が逃亡する事件が相次ぎました。平成30年8月、強制性交容疑などで逮捕されていた男が大阪府警富田林署から逃走。男は翌9月に身柄を確保されるまで、約50日間にわたって西日本を転々としていました。
令和元年6月には窃盗罪で実刑が確定した男が、刑務所に収容するために訪れた横浜地検職員に包丁を振りかざして逃げ、約4日間に及ぶ逃走劇の末、身柄を確保されました。
その後も全国で逃亡事件が相次ぐ中、決定的だったのがゴーン被告のレバノンへの逃亡でした。今でもゴーン被告は公判への出頭を拒んでいます。
このように、「保釈制度」の問題点が浮かび上がってきました。保釈の条件は「逃亡の恐れがない」とことであり、保釈金はその「人質」のようなもので、「大金を捨ててまでも逃亡しないだろう」という前提がありました。
ところが、古くはイトマン事件で6億円の保釈金で保釈された許永中被告は韓国に逃亡してしまい、ゴーンにいたっては15億円という巨額の保釈金を捨てて逃亡しています。もともと許もゴーンも外国人ですから、海外に逃亡する可能性は高く、「大金を捨ててまでも逃亡しないだろう」という前提が脆くも崩れ去ってしまったのです。これまでは、「日本にずっと住んでいて、家族も仕事もある被告人が逃亡するはずがない」という前提でしたが、これが当てはまらない事案が増えてきました。
安易な保釈も問題
GPSについては、日弁連などのリベラル派から「人権侵害だ」という反対の声が上がるでしょう。しかし、保釈中の被告人が逃亡することは「適切な刑罰権の行使」という観点からも、断じて許されないことです。
本来、安易な保釈は認めるべきではありませんが、刑事訴訟法では、取り調べが終わって起訴されたら原則として保釈する、というのが建前です。今までは「大金を捨ててまでも逃亡しないだろう」という前提で成り立っていたのですが、平気で保釈金を捨てて逃亡する被告人が出現してきました。弁護人や家族が「必ず裁判に出頭させます」と誓約書を入れても逃亡します。
通信手段が発達した現代では、外部との連絡が容易で逃亡しやすい環境にありますので、GPS装着は、「適切な刑罰権の行使」と「人権」との調和点とも言えます。実際には、保釈される被告人全てにGPSを装着することはなく、凶悪犯罪者や海外に逃亡する恐れのある者に限って運用していくことになるでしょう。
問題は、十分な機能を備えた端末の開発です。被告人の逃亡を確実に検知し、身柄を確保するためには、端末が生活の中で故障したり、取り外したりできないように頑丈であることに加え、通信が途切れないことも不可欠です。技術の進化にかかっていますね。それでは次号で!