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【タックル法律講話】「山門一体型ホテル」の一部には固定資産税はかからない?!
この問題をきっかけに宗教の在り方、税の公平性など議論すべきです

2023/08/01

「山門一体型ホテル」の一部には固定資産税はかからない?!
この問題をきっかけに宗教の在り方、税の公平性など議論すべきです


寺院側が逆転勝訴

寺院の正門に当たる「山門」を高層ビル化してホテルが入る国内初の「山門一体型ホテル」で話題となった大阪市の「南御堂(みなみみどう) 真宗大谷派難波別院」。
この「南御堂」は1595年創建で、大阪市を南北に貫く大通り「御堂筋」の名前の由来ともなった由緒ある寺院。ビルは地上17階のうち1~3階に高さ13メートル、幅21メートルの巨大な空洞部分が設けられた門型。5~17階はホテル、1階にはスターバックスコーヒーが入っています。寺院は、土地をビル側に貸し出し、空洞部分を「山門」として使用していました。
大阪市は、この空洞部分の「山門」の土地も含め、ホテルの収益事業で使用していると主張して固定資産税を算出し、2020年度に約3億1800万円を課税。これに反発した寺院側が、「山門の土地のうち約200平方メートルは、宗教活動で使用している『参道』にあたり、非課税の対象となる」と主張して約590万円の課税の取り消しを求めて訴訟を提起していました。
一審の大阪地裁は、「空洞部分も収益事業にあたる」と認定して、寺院側の訴えを棄却していましたが、6月29日、控訴審で大阪高裁は、空洞部分について「一切の使用収益行為が禁止され、課税対象の建物が存在する空間とそうでない参道空間が混在している」と認定。その上で「すべてを収益事業とした市の判断は、地方税法に違反する」として、2020年度の課税額のうち約480万円を取り消し、寺院側逆転勝訴の判決を言い渡しました。
これを不服とした市は最高裁に上告しており、最高裁の判断が注目されます。
ことのはじまりは、2011年の東日本大震災後、山門の耐震性の問題が浮上。解体・補強などの総事業費が90億円超にも及ぶため、「山門一体型ホテル」は、単独での再建を断念した寺院が編み出した資金調達手段でもありました。寺院にはビル側から地代が入ります。これを「妙案」と評価する声もありますが、景観は完全に変わってしまいました。
しかし、この「山門一体型ホテル」は明らかに商業活動ですので、非課税の根拠には乏しいのではないでしょうか。

進む「宗教離れ」

こうした歴史ある寺社が非課税でも不公平感がないのは、歴史、伝統によって受け継がれた信仰心や景観が守られているからこそだと思います。山門の耐震性を確保するためとはいえ、この「山門一体型ホテル」は明らかに商業性・収益性があります。
最近、寺社の境内地にマンションやビルが盛んに建築されています。また、運営が厳しい寺社に反社会勢力が入り込んで納骨堂開発や不正な土地利用を行っている例もあります。都心の一等地にある寺社で、収益性があり、しかも非課税となれば、今後ますます境内地の開発や建物建築が増えて、景観が損なわれる恐れがあります。
そうなると、宗教法人が非課税であることに国民の理解が得られるでしょうか?
不公平感が募り、「宗教離れ」が加速します。歴史、伝統が一体となったものに崇高さや畏敬の念を感じるからこそ、宗教法人に特別な配慮がなされていることにも理解が得られたのだと思います。
神職や僧侶が世俗的になり過ぎれば、人々の崇敬の念は薄れていくこととなり、最後は「宗教離れ」というツケが回ってくることになります。日本人の伝統と文化、精神性がますます失われることにもなりかねませんね。この問題をきっかけに宗教の在り方、税の公平性について議論を深めてもらいたいものです。それでは次号で!