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【タックル法律講話】危険運転致死罪は無罪になるケースも?
スピード、アルコールの程度など明確な数値基準を設定すべきです
2024/12/04
危険運転致死罪は無罪になるケースも?
スピード、アルコールの程度など明確な数値基準を設定すべきです
「進行の制御」か?「回避への対処」か?
大分地裁で危険運転致死罪の裁判が始まりました。法定速度60キロの県道を3倍以上の196キロの猛スピードで右折車と衝突し死亡させた事故です。検察側は危険運転致死罪で懲役12年を求刑しました。
危険運転致死罪の裁判では、「確かにスピードは出していたが、進行の制御が困難とまではいえない」として無罪になるケースもありますので、判決が注目されます。
法務省の検討会では、危険運転致死傷罪の在り方が議論されています。危険運転致死傷罪は「進行の制御が困難」な高速度の運転が対象ですが、実際には、法定速度の倍以上のスピードを出した事故でも、現場道路が直線なので「制御が困難とはいえない」などと裁判官が判断し、無罪になるなどの事例が相次いでいます。
検討会が着目したのは、高速度だとブレーキやハンドル制御が困難になる自動車の特性です。高速度の運転では直線道路をまっすぐに進行できても、迫る車や歩行者を避けるのは困難になります。そこで、検討会では、「進行の制御が困難」ではなく、「回避への対処が困難」となる運転を処罰の対象とすればよい、との意見がまとまりつつあります。
また、「最高速度の2倍」や「1.5倍」などの分かりやすい数値基準を設けるべきだとの意見が大勢を占めました。
確かに、現行の「進行の制御が困難」かどうか、という判断基準は抽象的です。最高速度の2倍のスピードでも「進行の制御が困難」とはいえないという判断は明らかにおかしいですから、数値基準を設けることには賛成です。ドライバーに制限速度をしっかりと認識させる効果もあります。
社会政策的な観点からの刑罰が必要
また、飲酒運転については、「血中アルコール濃度は性別、年齢などに関係なく運転能力に影響する」という専門家の見解を踏まえ、多くの委員が数値基準導入に賛成しました。しかし、「飲酒量と酔いの程度については個人差や心身の状態で違いが出る」とする反対意見もあり、一致した基準は示されませんでした。
確かに少量の酒でもベロベロに酔っぱらう人もいれば、どれだけ飲んでもケロッとしている人もいます。だからといって、飲酒運転に対する言い訳を許すわけにはいきません。
法律の世界では、「結果責任」と「行為責任」という考え方があり、「事故による死亡」という結果は重大だけれども、運転技術や酔いの程度、違反の程度には個人差があり、行為としてはそこまで悪質ではないからこれを加味すべきだ、という刑法的な論争があります。
しかし、これだけ交通事故、飲酒運転が減らない中で、個人の運転技術や心身の状態によっては、重大事故を起こしても危険運転致傷罪に問われない、といったあいまいな判断基準では交通ルールの意味がありません。
交通事故は取り返しがつきません。抑止という意味でも厳格な基準を設けるべきです。伝統的な刑法の考え方を修正し、より社会政策的な刑罰として捉えるべきです。
それでは次号で!