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【タックル法律講話】暴力団のETCカード使用を巡る裁判
有罪と無罪の分かれ道は?
人として生きる上での最低限のインフラ保障とは?

2025/03/03

暴力団のETCカード使用を巡る裁判
有罪と無罪の分かれ道は?
人として生きる上での最低限のインフラ保障とは?




有罪と無罪。何が違うのか?

暴力団員が家族名義のETCカードで割引を受けるのは犯罪なのか?
不正に割引を受けたとする電子計算機使用詐欺罪で、暴力団山口組直系団体のトップ3人が相次いで起訴されました。いずれも公判で無罪を主張。一般的にETCカードの貸し借りは珍しくないのに「暴力団員だから起訴された」と公訴権の乱用も訴えました。別々の裁判長のもとで審理された結果、2人は有罪、残る1人は無罪の判断が下されました。
ETCカードやそれにひもづくクレジットカードは利用規約で名義人以外の使用を禁じている上、暴力団排除条項も設けており、暴力団員が正規に自身のカードを持つことはできません。争点となったのは、家族のETCカードを使って割引を受けた3人の行為が犯罪として処罰に値するかどうかでした。
弁護側は、ETCカード所持者約740人のうち約3割が「本人が同乗しない前提で同居家族にカードを貸したことがある」とのアンケート結果を証拠として提出。「犯罪になると考えるのは非常識」と無罪を訴え、「一般人であれば捜査すらされない。差別的だ!」と捜査当局の姿勢を批判しました。
同居する弟のETCカードを使って2回にわたり計1400円の割引を受けた暴力団会長に対し大阪地裁は懲役10月の実刑判決を言い渡しました。ETCカードを使用できるのが名義人本人のみであることは「システムの重要な前提」と指摘。「暴力団員との取引を拒絶する暴排条項を潜脱する(免れる)行為」と非難し、「常習性を考慮すれば差別的との主張は当たらない」と判示しました。大阪高裁もこの判決を支持し、暴力団側は最高裁に上告しています。別の暴力団会長も別居する息子のカードを使ったとして同じ理由で有罪(執行猶予付き)となり、控訴しています。
一方で、別の暴力団会長に対して地裁は「処罰に値するということはできない」と無罪を言い渡しました。会長が使っていたETCカードの名義人は「生計を一にする同居の事実婚の妻」と言及。弁護側のアンケート結果も踏まえ、「同居の夫婦間であっても、本人以外のETCカードを使うと不正通行になるとは(社会全体に)周知されていない」としています。妻が会長に相談することなく自らETCカードを取得し、「暴力団用」を別途取得したわけではないとの経緯もあり、「暴排条項の潜脱を意図したとまでは評価できない」と指摘。ほかの2被告とは異なる結論に至りました。検察側は無罪判決を不服として控訴しています。

暴排と最低限のインフラ保障のあり方は?

ある警察OBは、無罪判決において「ETCカードはクレジットカードと比べて使用時の本人確認が厳格ではない」と違いに言及されたことに着目。「クレジットカードとひもづいている以上、名義人に対する個人的信用がETCシステムの根幹といえる。他人使用の禁止も、クレジットカードとETCカードは同様に評価するのが普通で、無罪判決の考え方は異例ではないか」と話しています。
有罪判決の理由は「規約」に基づいています。争点のひとつとして挙げられているのは、「虚偽の情報」を提供したかどうかという点です。ここでの「虚偽の情報」とは、システムで予定されている事務処理の目的に照らして、その内容が事実に反する情報を指しています。判決では、道路会社の利用規約に関して「ETCカードによる支払いは、通行の都度、クレジットカード会社から貸与を受けている本人が乗車する車両1台に限り行える」と説明しています。
日々の生活を支える基盤(INFRASTRUCTURE、インフラストラクチャー)、いわゆる「インフラ」とは「それがないと生活がなりたたないもの」、例えば、公共施設、ガス・水道、道路・線路、電話・電気などです。
暴力団員であっても、最低限の生活インフラを使えないと生きていけないという現実があります。銀行口座を開設できないと携帯電話も使えません。家を借りられないと住む所もありません。確かに高速道路は現金で使用できますが、キャッシュレスが進めば、高速道路にも乗れない時が来るかもしれません。
暴排は暴力団になるモチベーションを抑制する目的がありますが、人として生きる上で必要な最低限のインフラの保障については、まだまだ議論の余地がありそうです。それでは次号で!