コラム
【タックル法律講話】体育祭の騎馬戦事故で賠償金二億円! 運動に怪我はつきものですが、これからは徹底した安全配慮義務が求められます!
2015/04/10
学校側の「安全配慮義務」違反
福岡県立筑前高校の体育祭の騎馬戦で負傷し手足がまひする後遺症が残った当時三年生の男性(二十九歳、福岡市)らが、「学校側の安全配慮が不十分であった」として福岡県に対して損害賠償を求めた裁判で、福岡地裁は県に約二億円の支払いを命じました。
判決では、「実戦での事前練習はなく、生徒が転落の危険性を認識し、対処する能力を身に付けるのに十分でなかったことは明らか。学校側は生徒に十分な練習をさせる義務があるのに怠った。」とされました。
確かに、騎馬戦は危ない競技です。
小学校では騎馬戦の勝敗を「帽子の取り合い」で決めており、騎馬が崩れることを防いでいます。
しかし、この筑前高校では、当時、「騎馬が崩れたら負け」のルールになっており、このルールだと、元気な高校生ですから、どうしてもヒートアップしてしまいます。
判決で「騎手が転倒する可能性は高かった」と指摘されたとおりです。
また、対戦する二騎の騎馬に対して一人ずつの割合でしか教諭ら審判員を配置しておらず、判決でも「予測した側の反対に落下した時の安全を十分に配慮していなかった」と指摘されています。
運動会は強制参加ですから、学校側が事故防止の安全対策を怠っていたことは事実であり、今回の判決は致し方ないでしょう。
過去に福岡県の別の高校でも騎馬戦による事故が発生して県が敗訴していますから、過去の反省が生かされていなかったことも問題です。
求められる高度な指導力と責任
私も、以前、高校や大学のラグビー部を指導したことがありますが、たまたま大きな事故がなかったのは運が良かっただけなのかもしれません。
ラグビーは体と体が激しくぶつかり合うスポーツですから、多少の怪我は仕方ありません。
同じく、体育祭でも、いくら先生達が安全に配慮していても事故が起きる可能性はあります。
怪我をしたら学校側が訴えられて巨額の賠償金を支払わなければならないとなれば、騎馬戦、棒倒し、ピラミッドなどこれまで続けられてきた伝統的な競技は見直しを迫られるでしょう。
実際、学校側が必要以上に自粛して廃止されるケースも出ているようです。
ただ、過度な自粛が広がれば、伝統の競技や「たくましさ」を育成する教育が減っていくことにもなります。
中学校で武道が必修科目になり、「受け身」など護身の技術を身に付けさせるにはいいことだと思います。
しかし、「武道で事故が起きて訴訟になっては大変だ」と学校側が萎縮して肝心の護身を教えられなくなるかもしれません。悩ましい問題です。
しかし、やはり、今回の男性のような悲劇を繰り返さないことが大切であり、現場では徹底した安全対策を施しながら、細心の注意を払って指導していかなくてはなりません。
先生や部の顧問には、高度な指導力と責任が求められていることを自覚しなくてはなりません。
それでは次号で!
ビジネス情報誌「フォーNET」掲載:2015年4月