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【タックル法律講話】「裁判員さま!」の意思を尊重する奇妙な控訴審判決。 これじゃ控訴審なんて要らないんじゃないの?!

2010/02/26

「裁判員さま!」の意思を尊重する奇妙な控訴審判決。
これじゃ控訴審なんて要らないんじゃないの?!


「裁判員さま」の判断を尊重するプロの裁判官

今までも何度か書いてきた、天下の悪法!「裁判員制度」。
問題の一つに、裁判員制度があるのは一審の裁判だけであって、二審の裁判(控訴審)では従来どおり、プロの裁判官だけ(通常は三人)で裁く、という点があります。
昨年五月に裁判員制度がスタートしてから、だいぶ時間が経ち、最近は、被告人が裁判員による判決を不服として、控訴する場合も増えてきました。
そんな中で、先日、長男を刺殺したとして殺人罪に問われ、福岡地裁の裁判員裁判で懲役六年の判決(検察官の求刑は十年)を受けていた久留米市の男性(七十九歳)が、これを不服として控訴していた控訴審判決で、福岡高裁は、一審の判断を踏襲し、量刑も裁判員裁判の結論を尊重して、あっさりと、被告人の控訴を棄却しました。
裁判員裁判の控訴審については、最高裁側は「国民の視点、感覚が反映された結果を出来る限り、尊重すべきである」という報告書を出しており、今回の福岡高裁の判決もそのとおりになったのですが、これって、何かおかしいと思いませんか?
これでは、せっかく、日本の刑事裁判が三審制をとっている意味がありません。一審の判断をそのまま踏襲するのであれば、一体、控訴審の裁判官は、何のためにいるのでしょうか?まさに、裁判所・裁判官の存在の否定、自殺行為以外の何物でもありません。そんなことなら、裁判官に、プロとして税金で高い給料を払う必要もないのでは?という気にもなります。

検察側も控訴しなかった

また、この事件では、検察側は控訴していません。検察側の求刑が懲役十年であったにもかかわらず、裁判員裁判の判決は懲役六年だったわけですから、従来であれば、検察側としては、軽すぎる!自分の子供を殺したというひどい事件なのに!控訴審でもう一度審理して、もっと重い刑を与えて下さい!」ということで、控訴してもおかしくない事案だと思います。
ところが、この事件では、検察側は控訴しなかった。一体、何故でしょうか?
詳しい事情はわかりませんが、先ほどの福岡高裁と同じように、一審の裁判員裁判はできる限り尊重すべきだから、検察側から控訴するのはやめておこう。」という意識が働いた可能性はないでしょうか?裁判員制度は、裁判所・検察が一体となって国家的プロジェクトとして推進されていますから、その裁判員が出した判決に文句を言うのはよくない、特に制度が始まったばっかりだし…、という意識が働いた可能性はないでしょうか?
どうも、私からすれば、「国民から選ばれた裁判員さま」に過剰に気を使いすぎて、刑事裁判の本来の役割である、真実の発見、被告人の手続保障という根本が忘れ去られていると思います。マスコミが書かないので、なかなか真実は報道されませんが、現場では、これからますます裁判員制度の問題点が浮彫りになってくると思います。それでは、また次号で!


ビジネス情報誌「フォーNET」掲載:2010年2月号