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【タックル法律講話】司法修習生は、卒業した時から借金まみれ? 「給費制」から「貸与制」への移行は、日本における司法の価値の低下の現れです。
2013/10/15
司法修習生は、卒業した時から借金まみれ?
「給費制」から「貸与制」への移行は、日本における司法の価値の低下の現れです。
六百万円もの借金を抱えてのスタート…
先日、弁護士・裁判官・検察官の卵である司法修習生(一年間)に国が給与を支払う「給費制」が廃止され、返済が必要な「貸与制」となったことをめぐり、元修習生ら約百二十人が「過去の修習生との差別にあたり、法の下の平等を定めた憲法に違反する」として国に対し一人あたり一万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしました。名古屋、広島、福岡の各地裁でも、同様の集団訴訟が起こされています。
司法修習生は、国民に対する義務として、高度な専門技術と識見を身につけるため、働くことを禁止され修習に専念することが義務付けられており、そのため、戦後六〇年にわたり、国から給与が支給されてきました(給費制)。私も、国から給与をいただいて、司法修習をさせていただきました。
二〇一一年から、この給費制が廃止されましたが、働くことは禁止されたままですので、生活費として、国が年間三百万円程度を貸与する制度(貸与制)になったのです。
給費制の廃止に反対する人々は、「修習を卒業した時点で、ロースクールの奨学金と修習中の生活費貸与によって、六百万円近い借金を負うことになる」「最初から借金を抱えた弁護士は、ただでさえ、競争激化で収入が少ないことから、目先の利益にばかり走り、国民のための人権活動や社会活動ができないおそれがある」などと主張しています。
しかし、このような主張では、およそ世間の賛同は得られないでしょうね。「自分が好きで選んだ道なのに、借金うんぬん言うのはおかしい。嫌なら目指さなければいい」「弁護士は高額所得者なんだから、国費で育てるのはおかしい」という素朴な疑問に答えられません。しかも、試験合格者増員やロースクールなどの司法改革路線をどんどん押し進めてきたのは、他ならぬ弁護士会自身なのですから、「今さら何を・・・」ということになります。
「財政難」の前に敗れ去るのか・・・
給費制が廃止になった理由は、結局は、財源の問題です。司法試験合格者の激増により、支出が増大したため、予算削減を余儀なくされたのです。
しかし、そもそも、「司法、立法、行政」は国家の基本であり、その一翼を担う司法の人材は国の宝であるから国費で養成すべき、というのが司法修習制度の理念でした。防衛大学校の学生の身分は「防衛省特別職国家公務員」であり、国防を担う幹部候補生として育成されることから給与が支給されていますが、司法修習生もこれに近い身分だったわけです。結局は、その理念が、「財政難」という理由で放棄されてしまった、ということですね。
そうであれば、給費制を復活させるには、「司法」というものがいかに国家にとって大切で、その人材育成は国家的な課題であり、結果的には国民一人ひとりに跳ね返ってくる問題であるということを、しっかりと国民に問いかけて理解してもらわなければダメですよね。私自身も、国費によって育てられたという自覚が、国民のために役に立ちたい、いい加減なことはできない、という動機、倫理感になっています。
他の国費事業(官僚の国費留学、職業訓練への補助金、小中学校への補助金など)と比べても、司法を担う人材の育成は、国家的な最優先課題だと思うのですが、皆さんは、どう思われますか?では、また次号で!
ビジネス情報誌「フォーNET」掲載:2013年10月