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【タックル法律講話】明暗分けた二人の死刑囚の再審事件。 袴田事件と飯塚事件に見る日本の裁判の問題点とは?

2014/05/15

明暗分けた二人の死刑囚の再審事件。

袴田事件と飯塚事件に見る日本の裁判の問題点とは?

天国と地獄

先日、再審請求における明暗がくっきり分かれた決定が立て続けに出ましたね。一つは、袴田事件です。1966年に静岡県で発生した強盗殺人、放火事件で死刑が確定していた袴田巖(はかまだいわお)氏について、再審開始が決定されました。決定で、静岡地裁は、犯人の着衣とされてきた衣類について、DNA鑑定結果などに基づき「捜査機関によって捏造されたものであるとの疑問は拭えない」と断じました。さらに「証拠を捏造する必要と能力を有するのは、警察をおいて外にない」「人権を顧みず、違法、不当な捜査を行った」と、捜査機関への痛烈な批判を浴びせました。

もう一つは、飯塚事件です。1992年、福岡県飯塚市で小学生の女児二人を殺害したとされる久間三千年(くまみちとし)氏について、2006年に最高裁で死刑が確定し、2008年に死刑が執行されました。無実を訴えている死刑囚について、刑の確定後わずか2年で死刑が執行されたことは異例の早さだと言われており、その背景には、2008年当時、同様のDNA型鑑定を実施した足利事件が再審に向けて動き出し、このままでは飯塚事件のDNA鑑定も誤りと判断され無罪となる可能性が出てきたため、慌てて、国側が死刑執行したのではないか?との見方が有力です。

死刑執行の翌年に、久間氏の妻らが「DNA鑑定に誤りがある」と再審を請求していましたが、先日、福岡地裁は「確定判決に合理的な疑いはない」として、再審開始を認めない決定を出しました。

まさに、袴田氏と久間氏、天国と地獄の差です。

司法に翻弄される死刑囚

袴田事件について思うのは、再審から決定まで膨大な時間がかかりすぎた、ということです。死刑が確定したのが1980年で、翌年に弁護団が再審を請求していますから、およそ30年近く、袴田さんはいつ死刑執行されるかわからない恐怖の日々を過ごしていたわけです。刑が確定してもいつ執行されるかわからない、法務大臣の胸先三寸、という今の死刑行政のあり方は、死刑囚、被害者・遺族の両方にとっても精神的な負担が大きく、死刑廃止や終身刑の創設とあいまって、検討されなくてはならない問題です。

また、飯塚事件では、当時のDNA鑑定の手法の間違いが明らかになりつつあった時期に、突然、久間氏の死刑が執行されました。時の法務大臣は鳩山邦夫です。足利事件と同じく、最新のDNA鑑定をやっていれば、再審無罪となる可能性があったにもかかわらず、それを待たずに死刑にしたタイミングには、国家権力の意地と闇を感じざるを得ません。
いずれにしても、この二人は、日本の司法に翻弄されたと言えるでしょう。

裁判官も神様ではありませんから、真実はわかりません。被害者や遺族にしてみれば、「では、一体、真犯人は誰なのか?」という新たな苦しみを背負うことになります。しかし、裁判所が「疑わしきは罰せず」の大原則を忘れて、無実の人が罰を受けることがあっては断じてならないのです。それでは、次号で!

ビジネス情報誌「フォーNET」掲載:2014年5月