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【タックル法律講話】進む「裁判の匿名化」。被害者や証人の氏名、住所を明かさない制度の導入へ。 被害者・証人の保護か、冤罪防止か?難しい選択です。

2014/07/15

進む「裁判の匿名化」。被害者や証人の氏名、住所を明かさない制度の導入へ。

被害者・証人の保護か、冤罪防止か?難しい選択です。


どこの誰が目撃したかわからない?


最近、ストーカー事件、性犯罪、暴力団がらみの事件で、被害者や証人が、犯人からの報復や危害を恐れて捜査協力を拒んだり、被害届を取り下げるケースが増えています。

そこで、政府の法制審議会は、裁判において、報復や被害を受ける恐れがある被害者や証人(目撃者など)を保護するために、被害者や証人の氏名・住所を被告人側に明かさない制度を導入する方針を固めました。

現行の刑事訴訟法は、被告人側も反証できるように、「原則として被害者らの氏名・住所を開示しなければならない」と定めています。

新しい制度では、検察官が、被害者や証人の氏名・住所を被告人に伝えると再被害や報復の恐れがあると判断した場合、氏名・住所を被告人に伝えないことを条件に弁護人のみに開示し、さらに再被害などの恐れが大きいと判断した場合は弁護人に対しても秘匿できる、としています。

弁護人がこれに反して被告人に情報を伝えた場合、検察官や裁判所は弁護士会に懲戒処分を請求することもできます。


弁護士も逆恨みされる?


被害者、証人の保護は理解できますが、この改正は、弁護士にとっては、やっかいですね。例えば、目撃者の名前も住所も分からないとなれば、「どこの誰が、俺がやっているところを見たと言っているんだ?!」「そんなわけないじゃないか!」と、被告人にとって、どこの誰だかわからない目撃者や証人が登場することになってしまいます。これまでは、目撃者の証言に対してきちんと反論できていたわけですから、被告人の防御権はかなり制限されることになります。

被告人の利益を守らなくてはならない弁護士としても、目撃者の証言の信憑性を調べようにも、相手がどこの誰だか分からなければ手の打ちようがありません。

また、弁護士自身も、困った立場に立たされます。被告人から「先生、どこの誰が目撃したと言っているんですか?」と聞かれても、「いやいや、私からは言えない」「私にも分からない」としか答えられません。被告人から逆恨みされる可能性もあります。

しかし、現実的に、悪質な被告人の場合は、被害者や証人を保護する必要性はありますし、暴力団のお礼参りを恐れるのも当然でしょう。

結局は、被害者・証人の保護を重視するか、それとも、冤罪防止のために被告人の防御権を重視するか、のバランスですね。弁護士の立場としては難しい運用となりそうです。それでは次号で!