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【タックル法律講話】 大津波にバスが巻き込まれて死亡した幼稚園児の遺族と園側が和解! 想定外の自然災害における「過失」の判断は難しい。

2015/01/15

 大津波にバスが巻き込まれて死亡した幼稚園児の遺族と園側が和解!
想定外の自然災害における「過失」の判断は難しい。

「東日本大震災で幼稚園の送迎バスが津波に巻き込まれて園児五人が犠牲となったのは園側が安全配慮を怠ったためだ」として、うち四人の遺族が園側に損害賠償を求めていた裁判は、園側が法的責任を認めて謝罪し遺族に合計六千万円を払うとの和解が、仙台高裁で成立しました。
一審の仙台地裁は、昨年九月の判決で、情報収集を怠ってバスを高台から海沿いに向かわせた園側に過失があるとして、総額一億七千七百万円の支払いを命じていました。
地震発生から十五分後、園の職員は園児たちを二台のバス(大バスと小バス)に分乗させ、園児たちの自宅方面に向かいました。一刻でも早く園児たちを親元へ返そうという判断でした。小バスには、海沿いの住宅街に住む園児十二人が乗っており、そのうち、親が迎えに来ていた七人は途中で小バスを降りました。しかし、大津波警報に気づいた小バスが園に戻ろうとしましたが、坂で渋滞に巻き込まれていたところに津波が押し寄せ、小バスは横転。中にいた園児五人は全員死亡、同乗していた女性職員一人が行方不明となりました。バスの運転手は自力で避難しました。行方不明となった女性職員は運転手の妻でした。
もう一台の大バスは運転手の判断によって途中で引き返したため、園児たちは全員無事でした。結果的には、海沿いの住宅街に向けて小バスを走らせた園側の判断が園児たちの死を招いてしまったと言えます。
園側は、「大きな地震が起きたら園に留めるのが原則。しかし、園庭に避難した園児たちが不安がったり寒がったりしたので、早く親御さんの元に帰そうした。」とバスを動かした理由を語っています。

自然災害の際の「過失」の難しさ

園側に大津波という自然の災害に対するマニュアルが無かったのか?あっても実行できなかったのか?ただ、「あれだけの大津波が来るとは思わなかった」という園側の説明は、自分の身に置き換えると、他人事ではないですね。想定外の自然災害の際に、自分自身、的確な判断ができるのか?「過失」、「注意義務」の判断は、「あの時、ああしておけばよかった」という、あくまでも事後から見た判断でしかありません。
何百年に一度の大災害、後から見て「的確な判断」ができたかどうかは紙一重ですね。あの未曾有の大津波で多くの犠牲者が出た中で、どれだけの人が「的確な判断」ができたのでしょうか?
一方で、「あの時、園がバスを出す判断をしていなければ、うちの子は助かった」というご遺族の気持ちも痛いほど分かります。他人に子どもの命を預けるリスクを今回の裁判で考えさせられた親御さんも多いでしょう。
この事件を教訓として人々の記憶に長くとどめておくことが、亡くなった子ども達の供養にもなると思います。ただ、今回、裁判所が園側の過失を認めたことで、今後も自然災害の際の「過失」「注意義務」に関する訴訟が増えていく可能性がありますね。
今年も、コラムのご愛読をよろしくお願いします。それでは次号で!

ビジネス情報誌「フォーNET」掲載:2015年1月