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「熱血弁護士 堀内恭彦の一筆両断」産経ニュースコラム3月9日(木)掲載されました。

2017/03/09

3月9日(木)、産経ニュースにコラム「熱血弁護士 堀内恭彦の一筆両断」
「性犯罪の「非親告罪」化-被害者保護充実を」が掲載されました。
ご一読いただけると幸甚です。

「性犯罪の「非親告罪」化-被害者保護充実を」

日本の性犯罪への処罰は甘過ぎる-そんな声を受けて、去る7日、性犯罪を厳罰化する刑法の改正法案が閣議決定された。明治時代の刑法制定以来、110年ぶりの大改正である。改正法案には、(1)強姦罪などを被害者の告訴がなくても罪に問える「非親告罪」に改める、(2)強姦罪の名称を「強制性交等罪」に変更し、男女の区別なく処罰の対象とするとともに、法定刑の下限を懲役3年から5年に引き上げる、(3)親などの「監護者」が影響力に乗じて18歳未満の子供とわいせつ行為や性行為に及ぶと「監護者わいせつ罪」、「監護者性交等罪」として処罰する、などの内容が盛り込まれている。

現行刑法の性犯罪の法定刑があまりにも軽過ぎたのであって、刑の引き上げは「厳罰化」ではなく、むしろ「適正化」である。また、家庭内における性的虐待から子供たちを守るためには、暴行や脅迫がなくても監護者を処罰できなくてはならない。いずれも必要かつ適切な改正であり、遅すぎたとも言える。

問題は、「非親告罪」化である。

現行刑法では、強姦罪や強制わいせつ罪は、立件するには被害者の告訴が必要な「親告罪」とされている。「親告罪」とされた趣旨は、性犯罪が被害者にとって屈辱的で一刻も早く忘れたい出来事であり、それを事情聴取や裁判で繰り返し聞かれたり、公の前で証言することは精神的にも負担が大きく、「そっとしておいてほしい」との被害者の意思を尊重するためである。現実にも、被害者が犯人の報復や被害事実が公になることを恐れて告訴に至らず、「泣き寝入り」で表に出てこないケースも相当数にのぼる。

改正法案では、「立件するかどうかを被害者の意思に委ねることは精神的負担が大きい」との理由で、告訴がなくても立件できる「非親告罪」とした。「非親告罪」となれば、理論的には、被害者が嫌だと言っても捜査機関が捜査を進め、起訴できることになる。被害者が告訴せずに泣き寝入りし、何食わぬ顔で生活している性犯罪者に対しても、捜査の手が及ぶ。さらに、今まで加害者は被害者と示談して告訴を取り下げてもらえば立件されなかったが、「非親告罪」ではそれもできなくなる。

性犯罪者を処罰せずに再び社会に戻してしまうことは、第2、第3の被害者を生み出すことになるから、今回の改正法案は、被害者の意思の尊重よりも、性犯罪者を野放しにせず社会の治安を守るという側面を重視したものと言えよう。

ただ、現実の捜査では、「非親告罪」になったからといって、被害者の意思を無視してまで捜査を進めることはできない。性犯罪は主に密室で行われ、第三者の目撃証言も少ないため、加害者が「身に覚えがない」「あれは合意によるものだ」などと言い出したら、裁判で犯罪があったことを立証する証拠は、ほぼ被害者自身の証言しかない。被害者が捜査協力を拒めば、被害者の調書が作成できず、裁判における証言も期待できなくなり、有罪に持ち込むことは極めて困難となる。

結局、「非親告罪」に改正したとしても、現実の運用の場面では、今まで以上に被害者保護を充実させなければならず、被害者への慎重な配慮と裁判手続におけるプライバシー保護の工夫がなされなければならない。法改正にはそのような視点が不可欠である。

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