新着情報

【熱血弁護士 堀内恭彦の一筆両断】検察官に異例の「付審判決定」
検察組織の在り方が問われる

2024/08/20

8月20日(火)、産経新聞にコラム「検察官に異例の『付審判決定』 検察組織の在り方が問われる」が掲載されました。
ご一読いただけると幸甚です。

令和元年、不動産大手「プレサンスコーポレーション」の元社長の山岸忍氏が、大阪の学校法人の経営権や土地取引をめぐる業務上横領の罪で大阪地検特捜部に逮捕・起訴され約250日間拘束されたが、一貫して無実を主張し、3年に無罪が確定した。

この事件に関し、山岸氏が捜査に関わった検事を「違法な取り調べを行った」として特別公務員暴行陵虐罪で刑事裁判にかけるよう求めた「付審判請求」で、大阪高裁は8日、田渕大輔検事(52)を審判に付することを決定した。

昨年3月の大阪地裁の決定では山岸氏の請求が退けられていたので、逆転決定である。検察官が審判に付されるのは史上初のことで極めて異例だ。

決定によると、田渕検事は山岸氏の元部下を取り調べた際、「いっちょまえにうそついてないなんて。かっこつけるんじゃねーよ」「検察なめんなよ。命賭けてるんだよ、俺たちは。あなたたちみたいに金を賭けてるんじゃねえんだ」「損害を賠償できます?10億、20億じゃ済まないですよね」「(会社の)評判をおとしめた大罪人ですよ」などと罵倒し、大声で怒鳴る、机をたたくなど威圧的、侮辱的、脅迫的な言動を行い、これが陵虐行為に該当すると判断された。今後は田渕検事に対する刑事裁判が大阪地裁で開かれ、裁判所が指定した弁護士が検察官役となり、有罪を立証していくことになる。

「付審判請求」は刑事訴訟制度の一つで、公務員に職権乱用の疑いがあるとき、検察官の不起訴処分に不服があれば、裁判所に対して審判に付すことを請求できる制度である。わが国では「起訴便宜主義」が採用されており、起訴・不起訴の判断は原則として検察官のみが行うものとされているが、付審判請求はこの例外として位置付けられている。

すなわち、もともと刑事捜査において検察と警察は協力関係にあることから、警察官の違法捜査など特定の公務員犯罪においては、検察官が起訴に不熱心だったり、公平中立な判断が期待できなかったりする恐れがある。そこで、裁判所が代わりに起訴できるというのがこの制度だ。

警察だけでなく、今回のような特捜部による検察の独自捜査も付審判請求の対象となる。
付審判決定が出されることは極めて稀(まれ)で、歴史上認められた件数は23件に過ぎず、認容率はわずか0・07%である。検察官への付審判請求が認容された例は過去になく、今回の決定は検察にとって大きな衝撃であろう。

決定は「田渕検事個人はもとより、検察庁内部でも深刻な問題として受け止められていないことがうかがわれ、そのこと自体が、この問題の根深さを物語っている」と述べて、検事個人だけでなく、違法な取り調べを黙認した検察組織そのものについても厳しく糾弾している。検察は猛省すべきである。

今後、取り調べの録音・録画記録を精査し、検察の取り調べ全般について検証し、抜本的な改革を行う必要がある。また、不当な取り調べの温床となっている長時間の取り調べの是正も課題である。さらに、限定的にしか運用されていない取り調べの録音・録画について、全ての被疑者・参考人を含めて全過程の録音・録画を義務付けることが必要となろう。加えて、多くの国において認められている弁護人の取り調べへの立ち会いが、日本においては認められていないことも大きな問題である。

国民の信頼を取り戻すために、検察は本件の問題点を自ら究明し、組織全体として真摯(しんし)に対応することが望まれる。



産経ニュース記事リンクはこちら